Page 799 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼贐(はなむけ)柳沢敦 町田鹿 15/7/4(土) 6:01 ┗贐(はなむけ)柳沢敦2 町田鹿 15/7/4(土) 6:07 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 贐(はなむけ)柳沢敦 ■名前 : 町田鹿 ■日付 : 15/7/4(土) 6:01 -------------------------------------------------------------------------
日差しは強かったと思う。アウエイのエコパ第1戦で奇跡的に同点に追いつき、 第二戦はホーム・鹿島スタジアムだった。エコパの帰り、「よし、これで次はホ ームだ。口々につぶやくサポーターにまじり、僕は内心非常に不安だった。 サッカーの内容がジュビロの方が上に感じていた。実際、それほどこの時のジュ ビロは強かった。今の川崎やかつての代表はこれの拡大再生産にすぎないが、 局面アイディアと選手間の呼吸とタイミングの技においてこの時のジュビロに遠 く及ばない。 午後3時過ぎ、鹿島神宮に必勝祈願に行った。神頼みしかできる事はない。 鳥居をくぐり祭殿に入ると不思議な空気があった。「えっ?」13番ばかりなのだ。 賽銭箱の前で「皆さんご一緒ですか。」と引率者らしい女性に聞くと、今朝早く みんなで富山を発ちましたと、はにかみながらいう。約65名とか。「ええっ? みなさん?富山から?」祭殿の中に13番を着た背中がぞろりとそろっている。 祈祷が始まった。 「日ごろつちかいし技を十分に発揮せしめジュビロ磐田を打ち負かし・・・」と 神官の声がはっきり聞こえる。少しおかしみを感じながらあたたかなエネルギー がわく。 参道前のそばやでお昼を食べていたら、さっきの集団が戻り店の奥に入っていく。 外を見ると、駐車場に35人乗りの中型バスが2台停まっている。富山ナンバーだ。 一台は1313。もう一台は5656。 ゴール、ゴールか。今日ヤナギが決めたら勝てるかもしれない。勝ちたい。勝たせ たい。 |
超満員のスタジアムに空席はなかった。一周し、アウエイメイン寄り家族コー ナー席を得た。そこも赤い。あの人たちは座れただろうか。いた。サポ席の中 段右。「柳沢敦応援団」の幟が揺れている。よかった。やるな、インファイト。 僕の右側一角、ジュビロサポ席を除いてスタジアム全体は真っ赤だった。みん な勝つ気でいるのだろう。何を根拠にこんなに?とまた内心思う。一体、サッ カーに勝たせるということはどういうことなんだろう? ゲームは案の定、ジュビロがパスを回し始める。追いかけては叩かれ、囲いに いく寸前で下げられ、ボールが取れない。悔しくもあり憎らしくもある。ジュ ビロの穴についてセレーゾが「ボランチとセンターバックの間にボールを落とし」 「3バックの袖」と言っていたのを思い出すが向こうも分かってる。その局面が 作れない。 90分が過ぎクライマックスの延長前半、小笠原満男が両手でボールをセットする。 もう始まっている。その視線はボールとゴールの間に静かに糸を張っている。 柳沢は真っ先にジュビロの壁を制限するぎりぎりのコース左端を見極め、立つ。 澄み渡った眼のまま小笠原満男の足元を離れたボールは糸を引くように柳沢敦の 頭に弧を描き柳沢敦が空けた頭上空間を経由してネットに突き刺さった。 湧きあがる喚声。天を仰ぐ中山雅史。 神威は示された。 |